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丸山真男(眞男)とは何者か?生涯・思想・代表作と現代的意義を解説

三田村 千尋 三田村 千尋 • 更新: • 公開: • 読了約 27 分
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丸山真男(丸山眞男、まるやま・まさお)は、戦後日本の政治学と思想史を大きく変えた政治学者・思想史家です。1946年に発表した「超国家主義の論理と心理」で日本のファシズムを分析し、『日本政治思想史研究』『現代政治の思想と行動』『日本の思想』などの著作を通じて、民主主義、個人の主体性、政治に対する責任という問題を問い続けました。2026年は1996年8月15日の没後30年に当たります。彼の議論を読み直すことは、戦後日本が何を反省し、どのような社会を目指したのかを考える手がかりになります。

丸山眞男はなぜ有名なのか。どのような思想を持ち、東京大学で何を研究し、なぜ現在も評価と批判の両方を受けているのか。この記事では、丸山の生涯と経歴、代表作の読みどころ、福沢諭吉との関係、戦後民主主義への影響を整理します。難解に見える思想を身近な問題に引き寄せながら、その功績と限界を解説します。

【基礎知識】丸山真男の読み方・プロフィールと、なぜ有名なのか

丸山真男

丸山真男の読み方は「まるやま・まさお」です。著作や学術資料では、旧字体の「丸山眞男」と表記されることもあります。どちらも同一人物を指しており、学術的な文献を探す際には両方の表記を知っておくと便利です。

丸山は1914年に大阪で生まれ、1996年8月15日に亡くなりました。専門は政治学、とりわけ日本政治思想史です。政治制度の仕組みだけでなく、人々が権力や国家をどのように理解し、どのような考え方を通じて政治体制を支えてきたのかを研究しました。

丸山眞男が有名なのは、戦前の日本の政治や思想を、単に軍部や一部の指導者だけの問題として片づけなかったからです。権力に従う人々の心理、組織内部の上下関係、国家と個人の関係などに目を向け、社会全体が破滅的な方向へ進む仕組みを分析しました。

加えて、丸山は専門研究を学界の内部に閉じ込めませんでした。戦後の政治や民主主義をめぐる議論にも積極的に関わり、大学教育や一般向けの著作を通じて幅広い読者に影響を与えました。東京女子大学の丸山眞男文庫による人物紹介でも、彼は戦後日本を代表する政治学者・思想史家であり、知識人として広く知られた人物と位置づけられています。

ただし、丸山の思想を「民主主義を支持した学者」という一言だけで理解するのは不十分です。彼が本当に問題にしたのは、民主主義という制度が存在するだけで、人々が自動的に自由で責任ある主体になるわけではないという点でした。制度を支える人間の意識や行動まで問うところに、丸山の特徴があります。

【生涯と経歴】東京大学での歩みから戦後知識人の代表格へ

丸山眞男の生涯を理解するうえで重要なのは、東京大学での研究活動と、敗戦を境にした日本社会の変化です。彼の思想は、大学の研究室で抽象的な理論を組み立てるだけで生まれたものではありません。戦前の日本が戦争へ進み、敗戦によって国家の正当性が大きく揺らいだ歴史的経験と深く結びついています。

東京大学法学部で日本政治思想史を研究

みすず書房の著者略歴によると、丸山は1937年に東京大学法学部を卒業し、1940年に助教授、1950年に教授となりました。専門分野は日本政治思想史です。江戸時代の儒学や国学、明治期の近代思想などを研究し、日本の政治意識が歴史のなかでどのように変化してきたかを明らかにしようとしました。

丸山の研究が画期的だったのは、思想家の主張を年代順に並べるだけでなく、言葉や概念の変化を手がかりに、社会における政治意識の変化を捉えようとしたことです。思想史を、政治学・歴史学・哲学が交わる領域として発展させた点にも意義があります。

敗戦直後の問題提起と海外での研究

1945年の敗戦後、丸山は戦前の国家体制と日本ファシズムの分析に取り組みます。1946年に発表した「超国家主義の論理と心理」は、その代表的な成果です。戦争を可能にした政治の仕組みだけでなく、権力に従う人間の心理や責任の所在にまで分析を広げたことで、戦後の政治思想を考えるうえで重要な論考となりました。

1961~1962年にはハーバード大学の特別客員教授、1962~1963年にはオックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジの客員教授を務めています。1971年に東京大学を退官した後も研究を続け、1975~1976年にはプリンストン高等学術研究所で研究に従事しました。

丸山は1996年8月15日に亡くなりました。没後も著作や講義録、書簡、座談などが刊行され、研究対象として読み継がれています。東京女子大学に設けられた丸山眞男文庫は、著書だけでは見えにくい研究の過程や知的交流を知るための重要な資料拠点です。

【思想をわかりやすく解説】丸山真男が重視した主体性と責任

丸山眞男の思想を理解するための入口は、「人はなぜ自分で考えることをやめ、権威や集団の判断に従ってしまうのか」という問いです。彼は、政治的な問題を指導者の資質や制度設計だけに還元せず、人間の考え方や行動のあり方から分析しました。

1.権威に従うだけでは政治の責任を果たせない

丸山が戦前日本の分析で問題にしたのは、国家や上位者の命令が絶対視される一方、個人が自分の判断で行動する余地が狭められていく構造でした。組織のなかで上からの命令を受け、さらに下の立場の人へ圧力を伝える。その連鎖が続くと、個々人は自分の行動を上位者の命令や組織の慣行のせいにしやすくなります。

このような構造では、誰もが何らかの形で関わっているのに、最終的な責任を引き受ける人が見えなくなります。丸山の議論は、重大な過ちが起きたときに「命令されたから」「みんながそうしていたから」という説明だけで責任を免れられるのか、という問いを突きつけます。

2.個人の主体性とは、自分の頭で判断すること

丸山にとって主体性とは、周囲に逆らうこと自体を目的とする態度ではありません。自分が置かれた状況を理解し、複数の価値や選択肢を比較し、自分の判断として行動することです。

たとえば、職場で不合理な指示が出たとき、学校や地域社会で多数派の意見が少数派を排除するとき、政治的な議論で所属集団の主張だけが正しいとされるとき。そこで問われるのは、権威や多数派の存在そのものではなく、それらの判断を検討する余地が残されているかどうかです。

主体性は、個人の自由を主張するだけで完成するものではありません。自分の判断が他者に与える影響を考え、結果に対する責任を引き受けることも含みます。丸山が民主主義を考える際に重視したのは、制度と、それを担う人間の自立した判断の両方でした。

3.「近代化」は制度を導入するだけでは終わらない

丸山の思想では、近代化を政治制度や技術の導入だけで説明することはできません。人々が慣習や権威を絶対視せず、状況に応じて考え、行動を選び取れるようになることも重要です。

この問題意識は、日本の思想史を研究した『日本政治思想史研究』にもつながっています。丸山は江戸時代の思想家である荻生徂徠や、明治期の福沢諭吉などを読み解き、政治や社会をどのように捉える思考が形成されてきたのかを探りました。

もっとも、丸山が描いた近代化の道筋には、後の研究者から批判も寄せられています。西洋近代を基準とした歴史の見方になっていないか、異なる文化や思想の展開を一つの方向へ整理しすぎていないかという問題です。丸山の主体性論を理解するには、その洞察力と同時に、近代という概念そのものを問い直す視点も必要です。

【代表作と関係者を整理】『日本政治思想史研究』『現代政治の思想と行動』『日本の思想』

丸山眞男の著作は、扱う時代や問題によって読みどころが異なります。日本の政治思想が歴史のなかでどう形成されたかを知るなら『日本政治思想史研究』、戦前の政治と権力の問題を考えるなら『現代政治の思想と行動』、民主主義と個人の主体性を身近な問題から考えるなら『日本の思想』が有力な入口です。

東京女子大学の丸山眞男文庫による解説や、出版社・図書館の書誌情報を踏まえ、主要な著作と人物の関係を整理すると次のようになります。

人物・著作 丸山との関係 主な読みどころ
東京大学法学部 学び、研究し、教授を務めた拠点 日本政治思想史を専門分野として発展させた場所
南原繁 師として思想形成に影響を与えた人物 自立した判断や、周囲に流されず立場を貫く姿勢を考える手がかり
『日本政治思想史研究』(1952年) 日本の思想史研究を代表する著作 江戸期の思想などを通じて、政治意識と近代化の形成を分析
「超国家主義の論理と心理」(1946年) 敗戦直後の日本ファシズム分析を代表する論考 権力構造、上下関係、責任の所在を考える入口
『現代政治の思想と行動』(1956~1957年、増補版1964年) 政治・権力・ファシズムを論じた主要論文集 戦前の政治思想と戦後の政治的課題を幅広く理解できる
『日本の思想』(1961年) 日本の思想と近代化を考える代表作 「である」ことと「する」ことを含む論考から、権利や自由の実践的意味を考える
福沢諭吉 丸山が近代日本の思想史を考えるうえで重視した思想家 自立や近代化の理念と、福沢自身の思想の限界をあわせて検討する
『日本政治思想史研究』は、思想の歴史を読む本

1952年刊行の『日本政治思想史研究』は、丸山の研究者としての力量を示す代表作です。江戸時代の思想を中心に、政治や社会の秩序を人々がどのように理解し、既存の権威や規範に対してどのような考え方を形成してきたかを分析しています。

この本を読む際の要点は、歴史上の思想家が何を主張したかだけでなく、その主張が生まれた時代背景や、従来の思想との違いに注目することです。丸山は荻生徂徠らの思想を読み直し、思想の変化から政治意識の変化を描き出しました。

ただし、専門的な思想史研究であるため、初学者には難しい部分もあります。最初から全体を理解しようとするより、各章で扱われる思想家や概念を確認しながら読む方法が適しています。

『現代政治の思想と行動』は、権力の仕組みを考える本

『現代政治の思想と行動』は、1956年に上巻、1957年に下巻が刊行され、1964年には増補版が出ました。法政大学大原社会問題研究所の歴史事典や昭和館デジタルアーカイブの書誌情報からも、ファシズム、日本のナショナリズム、イデオロギー、政治権力など、幅広いテーマを収録した著作であることが確認できます。

特に重要なのが「超国家主義の論理と心理」です。この論考では、国家への絶対的な帰属意識や権力関係が、どのように政治的な行動を正当化するのかが問題になります。丸山は政治体制の制度面だけでなく、その体制を支える考え方や心理に目を向けました。

戦前の政治を理解したい読者に適した一冊ですが、論文集なので、最初から順番に通読する必要はありません。関心のある論考から読み、必要に応じて歴史的な背景を調べると理解しやすくなります。

『日本の思想』は、丸山の問題意識に触れる入口

1961年刊行の『日本の思想』は、丸山の問題意識に初めて触れる読者に向いています。なかでも「である」ことと「する」ことは、権利や制度が形式的に存在することと、それを実際に行使することの違いを考える論考です。

たとえば、法律で保障された権利があっても、それを使う人がいなかったり、権利の行使が周囲からの圧力によって妨げられたりすれば、制度が掲げる理念は十分に実現しません。丸山の議論は、権利や自由を単なる資格や状態としてではなく、実際の行動を通じて確かめるべきものとして捉える視点を与えます。

難解な思想史研究から入ることに抵抗がある人は、まず『日本の思想』を読み、そこから『現代政治の思想と行動』、さらに『日本政治思想史研究』へと進むと、丸山の関心がどのようにつながっているかを把握しやすいでしょう。

【超国家主義の論理と心理】丸山眞男が戦後日本に与えた影響

丸山眞男の名を広く知らしめた論考が、1946年発表の「超国家主義の論理と心理」です。第二次世界大戦の敗戦から間もない時期に発表され、日本のファシズムを支えた政治的・心理的な構造を分析しました。戦後日本の政治学が再出発するうえで、重要な問題提起となった論考です。

超国家主義とは何か

ここでいう超国家主義は、単に国を愛する気持ちが強いという意味ではありません。国家や国体が絶対的な価値として扱われ、個人の判断や倫理がその枠組みに従属するような政治思想と権力構造を指しています。

丸山の分析では、国家の行動が本質的に正しいとみなされると、国家による行為そのものを倫理的に批判する基準が失われやすくなります。国家や上位権力が正しさの基準を独占すると、個人は自らの判断によって権力の行動を評価することが難しくなります。

この問題は、戦前日本の軍事行動を正当化する思想を理解するうえで重要でした。丸山は、政治体制の分析を通じて、権力に対する倫理的な判断を個人がどう取り戻せるのかという、戦後社会の課題も提示したのです。

抑圧移譲の原理と「無責任の体系」

丸山の議論を理解するために押さえておきたい概念の一つが、抑圧移譲の原理です。これは、上位者から受けた圧力が下位者へ移され、さらに弱い立場の人へと伝わっていく構造を指します。法政大学大原社会問題研究所の歴史事典でも、「超国家主義の論理と心理」の解説において、この原理が日本ファシズムの精神的な起動力を考える重要な論点として紹介されています。

上の立場にいる人に逆らえない者が、その不満や圧力を下の立場の人に向ける。下の立場の人もまた、さらに弱い相手に同じ行動を取る。こうした関係が組織全体に広がると、誰もが権力に従いながら、別の誰かに圧力を加える側にもなり得ます。

この構造と結びつくのが、丸山の政治分析で知られる「無責任の体系」という問題です。組織の構成員がそれぞれ上位の判断や既存の慣行に依存し、自分の行為を最終的に誰も引き受けない状態では、重大な誤りを止める仕組みが働きにくくなります。

この分析を現代の組織に応用するなら、問題が起きた際に「担当部署の判断だった」「前例に従った」「上司の指示だった」という説明だけで議論を終えていないかを点検することができます。ただし、現代の職場や政治組織を戦前の日本とそのまま同一視するのは適切ではありません。丸山の理論は、責任がどのように分散し、異論がどこで封じられるのかを考えるための分析枠組みとして活用すべきです。

戦後民主主義への影響

丸山が戦後日本に与えた影響は、ファシズムの批判だけにとどまりません。民主主義を、選挙や議会などの制度を設ければ完成するものとしてではなく、市民一人ひとりが政治的な判断を行うことによって支えられるものとして考えた点にもあります。

そのため、丸山の思想は戦後民主主義を代表する議論として受け止められ、政治学の専門家だけでなく、教育や報道、社会運動などに関わる人々にも読まれてきました。一方で、彼の政治的立場や近代化の捉え方は、後の時代にさまざまな批判の対象にもなりました。影響力の大きさと議論の対立の両方が、丸山を戦後日本の重要な知識人にしているのです。

【福沢諭吉との関係と批判】丸山真男の思想は何が評価され、何が問題視されたのか

丸山眞男をより深く理解するには、彼が高く評価した思想家の一人である福沢諭吉との関係を押さえる必要があります。福沢は明治期の代表的な思想家であり、独立自尊や近代化を考えるうえで重要な存在です。丸山は福沢の思想を通じて、日本における近代的な政治意識の形成を考察しました。

福沢諭吉から何を読み取ったのか

丸山にとって福沢は、近代日本の思想を理解するための重要な研究対象でした。福沢が人間の自立や実践的な知識を重視したことは、丸山自身が問い続けた主体性の問題とも接点があります。近代社会の形成を、制度の変化だけでなく、人間の考え方や行動の変化から捉えようとした点が、両者を結びつける論点です。

ただし、丸山の福沢論は、福沢の思想を無条件に称賛するためのものではありません。近代日本の思想史において福沢が果たした役割を評価しつつ、その思想がどのような歴史的条件のなかで成立したかを考えることが重要です。

丸山眞男の思想が批判される理由

丸山に対する批判には、いくつかの異なる論点があります。第一は、近代化の歴史を説明する際に、西洋近代の概念や発展の道筋を基準にしすぎているのではないかという批判です。特に、江戸時代の思想を近代的な主体性の形成という観点から読む手法については、歴史の多様性を一つの発展図式に整理してしまう危険性が指摘されています。

第二は、福沢諭吉の評価をめぐる問題です。福沢の独立や近代化の理念を重視する一方で、福沢の対アジア観や帝国主義との関係を、どこまで厳密に批判的に捉えられているかという問いがあります。福沢と丸山の双方を近代日本の思想史のなかで検討する研究では、丸山による福沢理解そのものも再検討の対象となっています。

第三は、戦後民主主義をめぐる政治的・思想的な対立です。丸山は、個人の自立や政治的責任を重視する立場から、戦前の権力構造を批判し、戦後の政治についても積極的に論じました。そのため、彼の民主主義観や政治的立場について、保守的な立場からの批判だけでなく、戦後の民主主義そのものの限界を問う議論も展開されてきました。

これらの批判は、丸山の業績をすべて否定するものではありません。むしろ、彼が提示した分析枠組みを別の角度から検証し、歴史的な事実や思想の多様性をより精密に理解するための研究課題です。評価と批判を区別して読むことが、丸山の思想を公平に理解するうえで欠かせない。

【プロの結論】丸山を読む際に見極めたい三つのポイント

第一に、丸山が分析した歴史的事実と、そこから導いた理論的解釈を分けて読むことです。戦前の日本の政治構造についての分析が鋭くても、それが日本の歴史全体を説明する唯一の枠組みになるとは限りません。

第二に、主体性や民主主義という理念を、現実の制度や権力関係と照らし合わせることです。自由な判断を重視する考え方は有益ですが、個人の意志だけでは解決できない制度的な問題や社会的な格差にも目を向ける必要があります。

第三に、丸山の議論に賛成するかどうかを先に決めず、彼がどのような問題を発見し、どのような根拠から結論を導いたかを確認することです。評価すべき点と批判すべき点を同時に見つける読み方こそ、丸山自身が重視した主体的な判断にも通じます。

【2026年の現代的意義】丸山眞男の思想は今の社会にどう生きるのか

丸山眞男が亡くなって30年となる2026年、彼の思想を読み直す意味は、戦前の日本について知識を増やすことだけではありません。権威への服従、同調圧力、責任の分散、集団の判断を個人の判断より優先する心理など、社会のなかで繰り返し問題になる現象を考える手がかりになるからです。

組織の責任が見えなくなるとき

大きな組織では、業務が細分化され、意思決定に多くの部署や担当者が関わります。そのこと自体は専門性を高めるために必要ですが、問題が起きた際に、誰がどの判断を行い、誰が異議を申し立てることができたのかが見えなくなる危険もあります。

丸山の分析を手がかりにすれば、責任者を一人見つけて終わりにするのではなく、なぜ組織のなかで異論が出なかったのか、どの段階で問題が認識されながら放置されたのか、どのような評価制度や上下関係が行動を促したのかまで検討できます。これは企業、行政、教育機関などの組織運営を考えるうえでも有効な視点です。

情報が拡散する時代の同調圧力

インターネットやSNSでは、多数の人が支持している意見が、正しい意見であるかのように受け止められることがあります。短い投稿や断片的な情報だけで判断したり、所属する集団の主張に合わせて異論を避けたりする状況では、自分自身の判断がどのように形成されたのかを振り返る必要があります。

もちろん、丸山が論じた戦前の超国家主義と、現代のSNS上の同調行動は、歴史的条件も権力の規模も異なります。両者を安易に同じものとみなすべきではありません。しかし、権威や多数派の判断を無批判に受け入れていないか、反対意見を検討する余地があるか、自分の行動に責任を持てるかという問いは、今の情報環境でも意味を持ちます。

民主主義を制度だけに任せない

民主主義を支えるのは、選挙や議会といった制度だけではありません。政策の内容を理解し、異なる意見を比較し、権力の行動を検証し、必要に応じて異議を申し立てる市民の行動も欠かせない。丸山の主体性論は、政治を専門家や指導者だけに任せず、一人ひとりが判断の担い手になる必要性を考えさせます。

ただし、すべての問題を個人の意識の持ち方に帰してしまうと、制度上の欠陥や情報へのアクセス格差などを見落としかねません。丸山の議論を現代に生かすなら、個人が自分で考えることと、個人が自分で考えられる環境を社会が整えることの両方を検討する必要があります。

丸山眞男の現代的意義は、彼の理論をそのまま現在に当てはめることではなく、政治や組織の問題を見抜くための問いを受け継ぎ、歴史的な違いを踏まえながら検証し続けることにあります。

【著作おすすめ】丸山真男を初めて読むならどの本がいい?

丸山眞男の著作には専門的な研究書から一般読者向けの論考まであります。読書の目的を先に決めると、必要以上に難しい本から入って挫折するのを避けられます。

初めて読む人:『日本の思想』

丸山の思想の全体像に触れたい人には、『日本の思想』がおすすめです。政治思想史の専門的な議論に入る前に、思想や制度、個人の行動がどのように結びつくかを考えることができます。特に「である」ことと「する」ことは、権利や自由を実際に行使することの意味を考えたい読者に適しています。

戦前日本の政治を知りたい人:『現代政治の思想と行動』

日本のファシズムや権力の構造を知りたい場合は、『現代政治の思想と行動』を選ぶとよいでしょう。「超国家主義の論理と心理」をはじめ、ナショナリズムや政治権力に関する論考が収められています。戦後日本の政治思想が、何を反省し、どのような課題に取り組んだのかを理解するための中心的な一冊です。

思想史を本格的に学びたい人:『日本政治思想史研究』

歴史上の思想家や日本の近代化について深く学びたい人には、『日本政治思想史研究』が適しています。思想が生まれた背景や概念の変化を追いながら読む必要があるため、入門書というより本格的な研究への入口です。各章のテーマを確認し、必要に応じて江戸時代の思想史に関する解説書を併読すると理解が進みます。

福沢諭吉を詳しく知りたい人:『「文明論之概略」を読む』

福沢諭吉と丸山の思想的な関係に関心があるなら、丸山による『「文明論之概略」を読む』も候補になります。福沢の著作を読み解きながら、文明化や近代化の問題を考えるための著作です。福沢を丸山の解釈だけで理解するのではなく、福沢自身の著作や、丸山の福沢論を批判的に検討する研究もあわせて読むと、理解に広がりが生まれます。

読書の順番に迷ったら、『日本の思想』で基本的な問題意識をつかみ、『現代政治の思想と行動』で政治と権力の分析に触れ、最後に『日本政治思想史研究』で思想史研究を深める流れがおすすめです。専門的な研究を目的とする人は、最初から『日本政治思想史研究』を選んでも構いません。

【丸山真男に関するよくある質問(FAQ)】

Q1:丸山真男の読み方は?
A1:読み方は「まるやま・まさお」です。「丸山眞男」は旧字体による表記で、「丸山真男」は新字体による表記です。どちらも同じ政治学者・思想史家を指します。

Q2:丸山眞男はなぜ有名なのですか?
A2:戦後日本を代表する政治学者・思想史家として、日本ファシズムの分析や日本政治思想史の研究を進めたためです。特に1946年の「超国家主義の論理と心理」や、『現代政治の思想と行動』『日本の思想』などの著作が広く知られています。

Q3:丸山眞男の思想を理解するには、どの本から読むべきですか?
A3:初めて読むなら『日本の思想』がおすすめです。戦前日本の政治やファシズムに関心がある人は『現代政治の思想と行動』、日本の思想史を本格的に学びたい人は『日本政治思想史研究』へ進むと、目的に合わせて理解を深められます。

丸山真男(丸山眞男)は、1914年に生まれ、東京大学を拠点に日本政治思想史を研究した、戦後日本を代表する政治学者です。1946年の「超国家主義の論理と心理」では戦前の政治構造と人間の心理を分析し、『日本政治思想史研究』『現代政治の思想と行動』『日本の思想』などを通じて、政治、民主主義、主体性、責任の問題を掘り下げました。

その思想の中心にあるのは、権威や多数派に判断を委ねるのではなく、自分で考え、自らの行動に責任を持つことの重要性です。一方で、近代化の捉え方や福沢諭吉の評価などには批判もあり、彼の理論を無条件に受け入れるのではなく、歴史的な事実と解釈を区別して読む必要があります。

【プロの結論】丸山眞男を読む最大の価値は、正しい答えを与えてもらうことではありません。権力や集団の判断をどこまで信頼できるのか、誰が責任を負うべきなのか、自分自身はどのような根拠で判断しているのかを問い直すことにあります。2026年の今も、その問いは政治、組織、教育、情報社会を考えるうえで有効です。まずは『日本の思想』から読み始め、関心に応じて代表作や批判的研究へと進むことで、丸山の功績と限界の両方が見えてくるはずです。

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三田村 千尋

旅行と暮らしの記事を6年担当。施設の公式案内と自治体の発表を一次情報にして、料金や営業時間は更新日を明記します。

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